2023-08-22

甲斐荘楠音の全貌

  「甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性」(@東京ステーションギャラリー)を観ました。大正から昭和初期にかけて活躍した甲斐荘(甲斐庄)楠音(かいのしょう・ただおと 1894-1978(明治27-昭和58))の回顧展です。

 歌舞伎や芝居を好み、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロに傾倒していた楠音。そこかしこにモナリザの微笑みやミケランジェロの身体表現を思わせる、日本画としては異色の作風です。良い意味で日本画くさくない日本画です。スケッチブックにはアールヌーボー風の女性の絵なども残されています。また、自らが歌舞伎の女形や太夫に扮した写真を撮り、自身の作品のモデルになることで女性の魅力を追求しました。



 メインアートのひとつはメトロポリタン美術館所蔵の「春」(1929(昭和4))。日本での初一般公開だそうです(日本画なのにね…)。二曲一隻の屏風絵です(チラシは部分)。

 もう一枚は、やや小品の「女人像」(1920(大正)頃)。こちらは個人蔵。


 いずれも比較的怪しさひかえめ。もし「幻覚(踊る女)」(1920(大正9)頃)とかをメインにしたら客層が変わってしまうかもしれません…。目元を赤く隈取のように染め、緋色の着物を炎のように翻し、薄暗い室内で踊る芸妓。背後の襖に映る影は彼女のものではなく(あるいは彼女の正体なのか)、一本の角を持つ鬼の姿のようです。この独特の体の「くねくね感」が怖いです。「舞ふ」(1921(大正10))のくねくね感も私は結構怖い。


「幻覚(踊る女)」は、岩井志麻子著「でえれえ、やっちもねえ」の表紙になっています。

ちなみに、「ぼっけえ、きょうてえ」の表紙になっている京都国立近代美術館蔵の「横櫛」(1916(大正5)頃)も展示。「横櫛」は他にも広島県立美術館蔵のバージョンが存在します(展示替えで見られませんでした)。

歌舞伎演目「処女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)」に登場する、通称「切られお富」が題材。「♪死んだはずだよお富さん~」という歌で有名ですが、あの歌からイメージするようなカラッとした話ではなさそうですよ。


 楠音は映画の世界でも活躍しました。「天下御免の向こう傷」でおなじみの、市川歌右衛門主演「旗本退屈男」シリーズを筆頭に、多くの映画の衣装デザインや時代考証、風俗考証を手掛けています。溝口健司監督の代表作「雨月物語」では、アカデミー賞衣装デザイン賞(白黒部門)にノミネートされました。本展では楠音がデザインした衣装の一部や映画ポスターが展示(「停電中は自家発電で上映!」と書いた短冊が貼られたポスターが味わい深かったです)。懐かしいわー、と言いながら鑑賞されるご婦人もいらっしゃいました。


 注目すべきは、スクラップブックの存在です。国内外、老若男女、時には仏像までものさまざまな人物写真の切り抜きがびっしりと貼り付けられています。俳優や歌手の顔、相撲の取り組みの写真、仏像の顔、踊るバレリーナ、ハミガキの広告らしきものetc…。そんなものが60冊以上あるそうです。これはね、すごいですよ。みうらじゅんのスクラップブックよりも危険なにおいがします。他人が覗いてはいけない感じのものだと思いました。


 未完成の作品がちらほら展示されていましたが、八曲一隻の大作「畜生塚」(1915(大正4)頃)は未完ながらもかなりの迫力。完成した姿を見てみたかったです。


 暑すぎて出かけるのも億劫な日々が続いていましたが、がんばって観に行ってよかったです。

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展覧会情報

 会期:2023年7月1日(土) - 8月27日(日)
 会場:東京ステーションギャラリー




追記…

 せっかく東京駅まで来たので、銀座まで足を延ばして「ブルーナ絵本展」(@松屋銀座)を観てきました。


 いつものミッフィー5周年ごとの展覧会ではないので、展示も物販も少なめ。ミッフィー以外の絵本の登場人物、特にくまのボリスに焦点を当てた展覧会です。ブルーナさんいわく、ボリスは自分に似ているので書くのが楽しい、とのこと。


 1990年、「くまのぼりす」はオランダで最も権威があるとされる子どもの本の賞「金の絵筆賞」を受賞。

 ボリスが強風で傘を持ったまま吹き飛ばされる「ぼりすそらをとぶ」の下書きが展示。その他「しらゆきひめ」などの定番絵本や、子どものためのクリスマス解説本「クリスマスってなあに」の原画、絵本よりはるかに大きなサイズにプリントされたシルクスクリーン版画など。


 「しらゆきひめ」のポストカードを買いました。白雪姫の詳しい話をすっかり忘れてしまったのですが、姫は棺桶に入ってましたかね?

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展覧会情報

 会期:2023年8月15日(火)-30日(水)
 会場:松屋銀座8Fイベントスクエア


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