2023-07-18

出来事との距離 ‐ 描かれたニュース・戦争・日常

 「出来事との距離 ‐ 描かれたニュース・戦争・日常」(@町田市立国際版画美術館)を観ました。過去、現在のアーティストが描いたニュースや出来事にまつわる版画展です。


 まずはゴヤの版画集「戦争の惨禍」から。「戦争の惨禍」は、対仏独立戦争中の(1808~14)あらゆる残虐行為や戦後のフェルナンド7世による反動体制を批判した80点からなる版画集。

フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス「同じことだ」(1810-20頃)

命乞いするフランス兵にスペイン市民が斧を振り上げています。左奥では馬乗りになってナイフで刺そうとしています。


「もう助かる道はない」

目隠しをされて杭に縛り付けられた男に向けられた銃口。その銃を持つ兵士の姿は描かれていません。ゴヤの代表作の一つであるあの油彩画を思わせます。

参考:「マドリード、1808年5月3日」(1814)

 今回見たかった作品のひとつが、浜田知明(はまだ・ちめい 1917-2018)の「初年兵哀歌(歩哨)」。歩哨(見張り)は軍隊生活の中で唯一ひとりきりになれる時間。初年兵は骸骨のような顔から涙を流しながら、喉元に銃口をあてた小銃の引き金に足の指をかけています。太平洋戦争を生き残った元兵士の証言を聞くと、戦闘よりも軍隊生活そのものが死にたくなるようなものだったと想像できますから、彼も軍隊に絶望したのかもしれません。

 江戸時代の日本では、同時代の事件を描くことが禁じられていました(!)。浮世絵師たちは、歴史上の出来事を描きながら当時の事件を思い起こさせるよう趣向を凝らしました。

 月岡芳年の「魁題百撰相」は戊辰戦争(1868-69)のイメージに重ねられた歴史上の人物画の連作です。

月岡芳年「魁題百撰相 小幡助六郎信世」(1868)

石田三成の家臣、小幡信世の切腹場面。戊辰戦争における彰義隊の自害者と重ねられています。

 明治期になり版画が石版印刷に移行する中、大判でカラフルな木版は付録絵などに使われました。


月岡芳年「近世人物誌 やまと新聞付録第十一 花井お梅」(1887)

こちらは月極めの新聞購読者限定の付録。当時殺人事件を犯して舞台化もされるほど世間の注目を浴びた芸妓の花井お梅を描いています。今でも新聞は購読者限定で名画の額絵などをプレゼントしているようですが、同時代の事件現場のグラビアとか再現絵なんてものはさすがにないですよね…。


 本展のメインアートは若手作家の作品です。

松元悠「蛇口泥棒(長浜市、東近江市、砺波市)」(2022年)

作家が法廷画家を務めた事件に取材した作品。事件現場で不安そうにうずくまる子どもを自画像として描きました。


松元悠「アルマゲール島(祖母と大叔母の話)」(2018)

右下部拡大

作家の祖母と大叔母の話によれば、曽祖父の戦死を知らせる手紙には「アルマゲール島にて戦死」と記されていたという。しかしアルマゲール島という名の島は見つかっていません。そのために遺骨収集にも行けず、二人は作家の描いた幻の島で曽祖父の遺骨を探しています。


 残念ながら、「ニュース」というものは事件や事故、災害といった不幸な話ばかりです。そんな話が芸術(のようなもの)に取り入れられた時、鑑賞者としてどんな思いになればいいのか、私は少し悩みます。

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 同時開催の特集展示は「大正・昭和初期の東京風景 織田一磨を中心に」。関東大震災前後の東京の風景版画です。

織田一磨「十二階」(1916・大正5)

「十二階」というのは、1890(明治23)年に建てられた浅草の凌雲閣の通称。1923(大正12)年の関東大震災で上部が崩れ、残った部分は爆破解体されました。なんだか壊れる前から幻のよう。まるで蜃気楼です。

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展覧会情報

「出来事との距離―描かれたニュース・戦争・日常」
 会期 2023年6月3日(土)~7月17日(月祝)
 会場 町田市立国際版画美術館 企画展示室1、2

「大正・昭和初期の東京風景 織田一磨を中心に」
 会期 6月14日(水)〜9月24日(日)

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