2024-01-26

もうひとつの19世紀

  「もうひとつの19世紀 ―ブーグロー、ミレイとアカデミーの画家たち」(@国立西洋美術館)を観ました。19世紀後半のフランスとイギリスの芸術アカデミーの画家たちの展覧会です。


 フランスのレアリスムや印象派、イギリスのラファエル前派や唯美主義などの芸術運動の盛り上がりの裏で、衰退の危機を迎えた各国の芸術アカデミー(仏:王立絵画彫刻アカデミー(後の国立美術学校)、英:ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ)。伝統と歴史を継承しつつも、時代の需要を考え、主題や様式、媒体を変容させる柔軟な姿勢で19世紀を乗り越えてきました。

ウィリアム・アドルフ・ブーグロー「純潔」(1893年)

モティーフは聖母マリアと幼子イエスと思われますが、伝統的な宗教画で用いられる後輪などの宗教的象徴は省かれています。


ラファエル・コラン「楽」(1899年)

フランスに留学した黒田清輝らを指導したコラン先生。
明るい色調や外光を取り入れた制作方法、やや粗さの残る背景などは、アカデミーの中でも個性的です。


 肖像画は画家の大事な収入源。かつての権力者たちのように、芸術の新たなパトロンであるブルジョワ階級の人々も、自らの肖像画でその特権的階級を記録したがりました。

エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン「母と子(フェドー夫人と子供たち)」(1897年)

本作の別バージョン(オルセー美術館蔵)は1897年の国民美術協会のサロンに出品され、国家買い上げとなりました。


 印象派の画家たちが近しい人々をモデルにした肖像画を多く描いていましたが、アカデミーの画家もまた例外ではありません。

ウィリアム・アドルフ・ブーグロー「ガブリエル・コットの肖像」(1890年)

ガブリエルの父ピエール・オーギュスト・コットはブーグローの愛弟子であり友人。
本作は1890年のガブリエルの結婚の際に母親への贈り物として描かれました。

 19世紀後半、子どものモティーフは、身近な都市生活に主題を見出した印象派やナビ派の作家たちが盛んに描きました。アカデミーの重鎮だったブーグローは、ニンフやクピドを描いた「ファンタジー・ペインティング」と農村や山間を舞台にした現実の人々をモデルに描き、同じくミレイは肖像画と18世紀に流行した「ファンシー・ピクチャー(空想絵画)」で子どもを描きました。

ウィリアム・アドルフ・ブーグロー「小川のほとり」(1875年)

少女のポーズは古代ギリシア・ローマ彫刻の「スピナリオ(とげを抜く少年)」を思わせます。
本作は複製写真が販売され、人気を博しました。


ジョン・エヴァレット・ミレイ「あひるの子」(1889年)

いつも常設展にいるかわいい子。
アンデルセンの童話「みにくいアヒルの子」を思わせますが、原作の持つ寓意的意味合いはさほど感じられません。
水際のアヒルたちは少女が手にするパンを期待しているようです。


 前衛的な芸術の流れに負けまいとするアカデミーの画家たちの努力は涙ぐましくさえあります。やれ古臭いだの権威主義的だのと、当時の先進的な芸術家たちからは目の敵にされてきたアカデミーですが、別に悪いもの(作品)じゃないですよね…。私は結構好きです、この整えられた”美”。



‐‐

展覧会情報

会期:2023年9月19日(火)〜2024年2月12日(月・休)
会場:版画素描展示室(常設展示室内)
主催:国立西洋美術館
協力:西洋美術振興財団

0 件のコメント:

コメントを投稿