2025-09-09

ピカソの人物画

 【ピカソの人物画

20世紀を代表する芸術家パブロ・ピカソ(1881-1973年)の人物画に焦点を当てた小企画展です。近年多数の寄託作品により拡充された国立西洋美術館のピカソ・コレクションをまとめて展示。



初期の「青の時代」と呼ばれる頃の肖像画や戦前(第一次世界大戦)のキュビスムの実験的な作品、戦後の様式化された頭部など、技法も鉛筆による素描から油彩まで、幅広い多様な表現による人物画が展示。


ポスターになっていた油彩画「小さな丸帽子を被った座る女性」(1942年)についての科学調査結果の報告も。もともとは小さな帽子ではなく、明るい色調の大きなつば広の帽子を被っていたということが判明したとのこと。ちなみにモデルはドラ・マール。


画商からもらったルカス・クラーナハ(子)の複製絵葉書に触発されて挑んだリノカット(リノリウム版画。リノリウムというゴムのような合成樹脂材を彫って版にする技法。木版に似ている)による多色刷りも展示(1958年)。版画なので左右は反転していますが、構図や宝飾品は原画に忠実。一方、頭部は横顔と正面向きの顔を組み合わせた表現になっています。

参考:ルカス・クラーナハ(子)「女性の肖像」(1564)


小規模ながらピカソの人物画の変遷がよく分かる興味深い展示でした。

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展覧会情報

会期:2025年6月28日[土]-10月5日[日]
会場:国立西洋美術館 版画素描展示室
主催:国立西洋美術館


スウェーデン国立美術館 素描コレクション展


 【スウェーデン国立美術館 素描コレクション展 ―ルネサンスからバロックまで】

質、量ともに世界屈指といわれるスウェーデン国立美術館の素描コレクションの展覧会です。スウェーデン国王付きの建築家ニコデムス・テッシン (1654-1728年)と、彼の息子で王室の廷臣であったカール・グスタフ・テッシン(1695-1770年)のコレクションが基盤となっています。

イタリア、フランス、ドイツ、ネーデルラントの地域別の構成で展示。



まずは”素描”についての解説から。素描(デッサン、ドローイング)は、線描中心の平面作品です。画材や技法は時代や地域によって様々。木炭、チョーク、水彩、インクなど。また、制作の目的も様々。模写や写生、アイデア、完成した美術作品の記録、観賞用など。

左から「葦ペン」(現代)、「羽根ペンと携帯用ペンケース」(イギリス、19世紀)、「訂正用ナイフ」(イギリス、18世紀頃)、「羽根ペン削り用ナイフ」(イギリス、19世紀)

1.イタリア

パルミジャニーノ(本名フランチェスコ・マッツォーラ 1503-1540)
「聖ヨハネと男性聖人を伴う「長い首の聖母」のための習作、
左に向かって歩く男性」
ペン、褐色インク、灰色の淡彩、赤チョーク、枠線、紙

マニエリスムの代表的な画家、パルミジャニーノ。「長い首の聖母」のために約30点の素描習作を残しました。画面左の男性像は聖ヒエロニムス像のための準備素描と思われています。

参考:「長い首の聖母」(1534-40年、未完)
結局聖人は後ろの奥のほうに移動、聖母子と天使が中心になりました。


2.フランス

ニコロ・デッラバーテ(1509/12-1571)に帰属「蛙男」
ペン、褐色インク、淡い褐色の淡彩、紙(本紙より切り抜いて別紙に貼りつけ)


これはフォンテーヌブローの宮殿で催されたページェント(仮装行列やショー)のための衣装デザインと思われます。役柄の詳細は不明ですが、骨まで見える足のデザインや網?に小さな蛙が居たりと芸コマ。



メインアートになっていたのは、豪華な天井画のデザインです。

ルネ・ショヴォー(1663-1722)「テッシン邸大広間の天井のためのデザイン」
ペン、黒インク、筆、不透明水彩、透明水彩、金泥、紙

スウェーデンの国王付き建築家ニコデムス・テッシンの自邸のために制作させた天井装飾のデザイン。作者のショヴォーはスウェーデン国王に仕えたフランス出身の彫刻家です。

中央部分。竪琴を奏でる芸術の神アポロンと詩神ムーサたち。


3.ドイツ

マティアス・グリューネヴァルト(本名マティス・ゴットハルト・ナイトハルト)
(1470頃?-1530頃)
「髭のない老人の頭部」
木炭、紙

作者はアルブレヒト・デューラーと並ぶドイツ・ルネサンスの最重要な美術家のひとり。「AD」というモノグラム(左上)と「Albert Durer」(左下)という文字が書かれていますが、20世紀に入ってから本作はグリューネヴァルトに帰属しました。かつてデューラー作と思われていたのか、誰かがデューラー作にしたかったのか…?


ハンス・ホルバイン(子)(1497/98-1543)
「バーゼルのラハナー家の紋章盾があるステンドグラスのデザイン」
ペン、黒インク、灰色の淡彩、赤みがかった水彩による後補、紙

ステンドグラスってもっと縁取りくっきりで平面的、みたいなイメージがあったんですが、こんな感じになるようです↓ 同じ作者によるデザインのステンドグラスです。

参考:「ピラトに裁かれるキリスト」(16世紀)


4.ネーデルラント

ピーテル・パウル・ルーベンス「アランデル伯爵の家臣、ロビン」(1620)
ペン、褐色インク、黒と赤のチョーク、白チョークによるハイライト、黒インクによる枠線、紙

アランデル伯爵夫人の肖像画のための習作。衣装の色や素材についての書き込みがあります。ルーベンスは工房で絵画制作をしているので、指示として必要だったのかな。

参考:「アランデル伯爵夫人、アレシア・タルボットの肖像」


レンブラント・ファン・レイン「ティティア・ファン・アイレンブルフの肖像」(1639)
ペン、褐色インク、褐色の淡彩、紙

なんだか素描でもレンブラントはレンブラントっぽいですね! モデルは彼の妻サスキアの妹です。


コルネリス・フィッセル(1629頃-1658)「眠る犬」
黒と赤のチョーク、黒の淡彩、黒の枠線、紙

動物がテーマの作品はどの展覧会でも人気ですが、今回の注目動物はこちらの犬です。

そっとなでなでしたくなりますね。


地域別の展示でしたが、たしかにそれぞれの地域の雰囲気が作品から感じられました。いわれてみれば不思議とイタリアの作品はイタリアっぽいし、フランスの作品はフランスっぽいし、ドイツの作品はドイツっぽいし、ネーデルラントの作品はネーデルラントっぽいです。

そしてなんだか、素晴らしい素描というものは観ただけで自分も絵がうまくなったような気がしてくるのでした。この展覧会を観たら、あなたも絵を描いてみたくなるかもしれません。


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展覧会情報

会期:2025年7月1日[火]-9月28日[日]
会場:国立西洋美術館
主催:国立西洋美術館、読売新聞社
企画協力:スウェーデン国立美術館
協賛:DNP大日本印刷
協力:スウェーデン大使館、全日本空輸、TOKYO MX、西洋美術振興財団


2025-06-30

ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠

【オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠】を観ました。


パリのオランジュリー美術館がオルセー美術館の協力を得て、ルノワールとセザンヌ両画家に同時にフォーカスし、企画・監修をした世界巡回展。ミラノ、マルティ二、香港を経て、日本へやってきました。このあとはソウルへ行くようです。

以前のオランジュリー美術館コレクション展で展示されたものも多く再来日。ルノワールの「ピアノの前の少女たち」が記憶よりもかなり大きかったです(116×81cmだって)。

ルノワール「ピアノの前の少女たち」(1892年頃)


ピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir,1841-1919)とポール・セザンヌ(Paul Cezanne,1839-1906)は、印象派およびポスト印象派を代表する2人の巨匠です。1860年代の初め、印象派の画家たちを通じて、両者は知り合います。彼らの間にはお互いを認め合う友情が芽生え、生涯にわたり良好な関係だったそうです。


さて、それぞれの共通した画題の絵を見比べていきます。まずは果物。


ルノワール「桃」(1881年)

この桃はいい匂いがしそうだけど…


セザンヌ「わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご」(1890-1894年)

こっちはりんごなのかどうかも怪しい。そして物がずり落ちそうな傾斜のテーブル。


屋外の景色は…

ルノワール「雪景色」(1875年頃)

ルノワールは寒いのが苦手だったそうで、「冬の景色といえばこの作品だけだね」と語っていたそうです。


セザンヌ「樹木と家」(1885年頃)

奥行きのある風景のはずなのに、平面的です。


身近な人を描いてみると…

ルノワール「若い男と少女の肖像」(1876年)

友人(美術評論家 ジョルジュ・リヴィエール)を描いたと思われるこちらは屋外の日差しの温かさを感じさせるのに対し…


セザンヌ「画家の息子の肖像」(1880年頃)

セザンヌの描いた息子は前述のりんごと同じく無機物のようなひややかな質感です。右側にある物体は椅子の一部のようです。


浴女を描いてみたならば…

ルノワール「長い髪の浴女」(1895年頃)

アングル風の時代を経て豊満な女性像を描くようになったルノワール。


セザンヌ「3人の浴女」(1874-1875年)

豊満、なのかもしれないけれど、相変わらずの石のような硬さで構図を大事にするセザンヌ。


お花も比較してみます。


ルノワール「桟敷席の花束」(1880年頃)

エドゥアール・マネの影響を受けて描いた花の静物画。いわれてみればマネっぽい。ルノワールは他の作品でも花束を好んで描き込みました。


セザンヌ「花と果物」(1880年頃)

セザンヌの静物画は、花よりも果物が多く描かれています。

セザンヌ「青い花瓶の花」(1880年頃)

このセザンヌの2枚は、興味深いことに1枚目は画商でコレクターのポール・ギヨーム、2枚目はポールの死後妻のドメニカが購入。当初は修復が施されていたため対の作品と気づきませんでしたが、上塗りが除去されると、2点がもともと一つの作品だったことが確認されました。


なんとなく繋いでみました。


こうして比べてみると、それぞれの画家の良さがより理解できるような気がしました。あたたかく華やかなルノワールと、ゴリゴリしてどこか違和感のあるセザンヌ。あなたはどちらがお好き?



余談…

展示はおよそ50点。わりとあっさり目の展示なのですが、それにしては、チケットが、高い…と思いましたよ。ああ、これが円安というものか。

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展覧会情報

 会場:三菱一号館美術館
 会期:2025年5月29日(木)~9月7日(日)
 主催:三菱一号館美術館、オランジュリー美術館、オルセー美術館、日本経済新聞社
 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
 協賛:DNP大日本印刷




オランジュリー美術館、オルセー美術館を含むパリの美術館ガイド。



2025-05-30

梶コレクション展―色彩の宝石、エマーユの美

  「梶コレクション展―色彩の宝石、エマーユの美」を観ました。2024年にジュエリーアーティストの梶光夫氏より国立西洋美術館に寄贈された工芸コレクションの展覧会です。



 このコレクションは、ほぼすべてが「エマーユ」の作品です。emaux(エマーユ・仏語)は英語だとenamel(エナメル)、日本では七宝(しっぽう)と呼ばれるものとほぼ同じ。金属などの表面にガラス質の釉薬を焼き付けたものです。琺瑯(ほうろう)も仲間です。

 12世紀にはフランスのリモージュが”エマーユの町”として全ヨーロッパで知られていましたが、14世紀以降エマーユ産業は衰退。15世紀末に「エマーユ絵画」という新たな技法とともに復活。しかし17世紀半ばに再び衰退。次の復活の舞台は19世紀後半のパリでした。梶コレクションはそんな2度目の復活後の19世紀末から20世紀初頭の作品を中心に集められています。


 エマーユは飾り棚にあしらわれたり…

「エマーユの飾り棚」(1890年頃)

「エマーユの飾り棚」上部のエマーユ


2×3cmぐらい?の小さなピルケースにつけられたり…

「聖女ファビオラのピルケース」(19世紀後半)


有名絵画の模写が作られたり…

シャルル・ペルタン「《グランド・オダリスク》に基づくエマーユ絵画」(20世紀初頭)


ブローチに仕立てたり…

「愛らしい乙女のブローチ」(20世紀初頭)


…といったふうに、様々な姿で輝いています。


L.マルシャン「アイリスと女性」(1900年)

豊かな色彩となめらかな曲線が表現できるということもあり、アールヌーヴォーのスタイルとエマーユはとても相性が良いのですね。19世紀の再復興にはそんな理由があるのかもしれません。


 展示の中で目を引いたのはたくさんの極小のエマーユ。1円玉に満たないぐらいの大きさのエマーユがずらりと並んでいました。

「女性像とバスタイユの背景」(19世紀後半)

バスタイユとは下地の金属に模様を刻み、その上に透明・半透明のエマーユを施す技法のことです。


「花のゴールドエマーユ」(制作年代不詳)

通常、エマーユの素地の金属には銅が用いられますが、金が使われているものをゴールドエマーユと呼びます。またこれは、細い金属の線で輪郭が形作られ、その枠内にエナメル釉を置いて焼成するクロワゾネという技法が使われています。七宝でいうところの有線七宝ですね。


 コレクターの梶氏自らデザインしたエマーユジュエリーも展示。

デザイン:梶光夫「ゴールドエマーユペンダント」(エマーユは19世紀後半)


 小さな展示室ではありますが、細やかでゴージャスなエマーユの美を堪能しました。

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展覧会情報

会期  2025年3月11日[火]-6月15日[日]
会場  国立西洋美術館 版画素描展示室(常設展示室内)
主催  国立西洋美術館




西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで

  「サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館 西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで」を観ました。
 サンディエゴ美術館(SDMA)と国立西洋美術館(NMWA)の所蔵品を組み合わせ、西洋画の流れとともに、作品を楽しんで見るための鑑賞のヒントを提案する展覧会です。

 サンディエゴ美術館は1926年に開館。アメリカ西部でヨーロッパ古典絵画のコレクションを築きました。一方、国立西洋美術館は1959年の開館です。いずれも”非ヨーロッパ圏で西洋美術をコレクションしている”という美術館です。

 




ゴシック~ルネサンス期の宗教画


ジョット(ジョット・ディ・ボンドーネ)「父なる神と天使」(1328-35年頃)(SDMA蔵)

金ピカのこちらは聖堂のために作られた祭壇画の上端部。15世紀末の祭壇修復の際に「ゴシック的な尖塔なんて古臭い」として外されたそうです。



フラ・アンジェリコ(グイド・ディ・ピエトロ)「聖母子と聖人たち」(1411–13年頃)(SDMA蔵)

こちらは個人の家のために描かれたもの。


ボデゴン

 続いて、ボデゴン(特にスペインで盛んになった、食べ物や食卓に関連する静物画)を見ましょう。


フアン・サンチェス・コターン「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」(1602年頃)(SDMA蔵)

ナポレオン占領下に押収されるまでスペインの王室コレクションにあったというこの作品、ボデゴンの最高傑作、だそうです。本展のメインアートになっています。ところで当時はキャベツを吊るして保存していたんでしょうか、それとも演出でしょうか…? この暗い背景に石の枠(どうやらセラーっぽいです)、という構図がボデゴンの典型になります。



フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」(1621年頃)(NMWA蔵)

西美からの出品はこちら。「マルメロ…」の家よりも豪華な食卓になりそうですね。バン・デル・アメンもボデゴンを代表する画家のひとりです。


肖像画

 次はフランスの肖像画を見ましょう。いずれも女性画家の作品です。

マリー=ガブリエル・カペ「自画像」(1783年頃)(NMWA蔵)

常設展示でおなじみの彼女。胸元が大きく開いた流行のドレスをまとっていますが、画家らしくイーゼルを前にデッサン用のチョークホルダーを手にしています。当時は 女性が公的な美術教育の場には参加できませんでしたが、立派に職業画家として成功しました。髪のリボンに合わせて額にリボンがあしらわれているのがかわいいです。


マリー=ギユミーヌ・ブノワ「婦人の肖像」(1799年頃)(SDMA蔵)

ブノワはカペと同時期に初めてサロン(官展)に出品した女性画家のひとり。彫塑的な姿と古代風の衣装で新古典主義的な画面になっています。


印象派

 印象派の絵も見てみます。

カミーユ・ピサロ「立ち話」(1881年頃)(NMWA蔵)


セオドア・ロビンソン「闖入者」(1891年)(SDMA蔵)

いずれも農村によくみられる垣根のモティーフが描かれています。ピサロは印象派の最年長者、ロビンソンはジヴェルニーで表現手法を学んだアメリカの画家です。印象派って風景画が多いような気がするけど、私はやっぱり人物が描かれた絵が好きだな。



 ざっとこれだけ見ても、時代による表現の違いがよく分かりますね。描かれる対象もどんどん庶民の生活に近づいていきます。ほかに肖像画や風景画も。立体物も少しありましたよ。

フアン・デ・メサ「幼児キリストの勝利」(1620年頃)(SDMA蔵)

宗教彫刻は、ルネサンス以降大理石やブロンズの無着色の像に転換したイタリアなどに対し、スペイン(およびその植民地)では木やテラコッタに彩色した像が好まれました。この像は合金の鋳造に彩色を施したもの。フアンの幼児キリスト像は人気を博したそうです。仏教における誕生釈迦仏像みたいなもんですかね。


 ところで、本展で一番人気(と思われる)作品はこれです。

フランシスコ・デ・スルバラン「神の仔羊」(1635-40年頃)(SDMA蔵)

台の上で四肢を結わえられた仔羊はキリストを象徴しています。頭上には光輪が描かれ、表情は穏やかです。これは静物画のコーナーにあったのですが、この構図は前述のサンチェス・コターンに則っているのですね。
 宗教画は好きだし、羊毛のモコモコ感はいいけれど、なにせ足を縛られた生贄なので、ちょっと心にもやもやしたものが…。この羊が”食材”として描かれていたのなら、また捉え方は違うのですが。


 それはさておき、今回の私のお気に入りはこちら。

ベルナルディーノ・ルイーニ「マグダラのマリアの回心」(1520年頃)(NMWA蔵)

レオナルデスキ(レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を強く受けた画家たち)の代表的な画家、ルイーニ。19世紀までイタリア・ルネサンスを代表する画家として高く評価されていました。マグダラのマリア(向かって右)のにったりした表情とか、よく描けてると思うのよ。でも…左の妹のマルタのほうはちょっと手を抜いた感が無きにしもあらず…気のせい? 左右別々のものを貼り合わせたような不思議な雰囲気の絵です。


 2つの美術館を凝縮した、おいしいとこどりの展覧会でした。


 ただ、今回はこれだけではございません。おなじみの所蔵品が特別展に並んでいるのだから、常設展も様変わりしているはず!というわけで覗いてみたら、関連作品の特別展示がありました。

ジョヴァンニ・ボンシ「バーリの聖ニコラウス」(1365-70年頃)

ジョット(最初に紹介した三角の絵の作者)の影響が見られるというこの作品。バーリの聖ニコラウスは現在のサンタクロースの原型となった聖人。あるとき隣人が財産を失い3人の娘を身売りしなければならなくなったことを知り、夜な夜なその家の窓から金貨を投げ入れて与えたという逸話から、3つの金色の球を持つ姿で表されています。


ソフォニスバ·アングィッソーラ「スペイン王子の肖像」(1573年頃)

16世紀のヨーロッパで最も成功した女性画家による肖像画。モデルはスペイン国王フェリペ2世の早逝した息子フェルナンド皇太子(1571-1578 年)と考えられています。


ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル
「フェイディアスの習作」(1827年(1866年に拡大))

フランスの新古典主義を代表する画家アングル先生の作品。政府の依頼で描いた巨大な絵画「ホメロスの礼賛」(ルーヴル美術館蔵)に登場する古代ギリシャ彫刻家フェイディアスの部分。1827年に頭部を描き、その後断片を別のカンヴァスに貼り付け、腕などを描き足して拡大したものが本作です。

参考:「ホメロスの礼賛」(1827)


 興味深い新蔵品もひとつ紹介。

ラヴィニア・フォンターナ「アントニエッタ・ゴンザレスの肖像」(1595年?)

16世紀後半から17世紀初めにかけてローマとボローニャで活躍した、美術史上初めて本職の画家として成功した女性画家の作品。極端に毛深い多毛症の少女の肖像画です。同じ構図の絵がフランス・ブロワ城の美術館にありますが、こちらがオリジナルであると考えられています。
 そもそもはアントニエッタの父ペドロ・ゴンザレス(ペトルス・ゴンサルヴァス)が多毛症で、その珍しさから少年の時にカナリア諸島からパリに連れてこられました。ヘンリー2世の庇護のもと宮廷で暮らし、やがてうまれた彼の数人の子どもたちにもその体質は遺伝したのです。アントニエッタはそのうちのひとり。一家は各地の宮廷に求められ、最終的にはイタリアのパルマに落ち着きます。


参考:ヨリス・フフナーゲル「ペドロ・ゴンザレス(ペトルス・ゴンサルヴァス)と彼の妻、キャサリン」
(1575-1590年頃)

パパとその妻キャサリンとのつながりは、有名な物語「美女と野獣」に影響を与えたことで有名です。


 久しぶりに美術展を観たら、目が乾きました。まばたき忘れたんかな。


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展覧会情報(東京展)

会期 2025年3月11日[火]―2025年6月8日[日]
会場 国立西洋美術館
主催 国立西洋美術館、サンディエゴ美術館、日本経済新聞社、TBS、TBSグロウディア、テレビ東京
協賛 大日本印刷
後援 アメリカ大使館

協力 日本航空、西洋美術振興財団
特別協力 Nanifesto Expo